「IPO準備を進めているが、監査法人とのやり取りに不安がある」「内部統制の整備や決算業務の質を上げたいが、具体的な方法がわからない」「監査対応での不備を防ぎたいが、何から始めれば良いのか迷っている」といった悩みを抱えている企業は少なくありません。
IPOを目指す企業で監査対応の準備が不十分だと、上場審査でのスケジュール遅延や、最悪の場合、上場申請の取り下げにつながるリスクがあります。初めてIPOを経験する企業では、監査法人から指摘される課題の対応に追われ、本来の事業活動に支障をきたすケースもあるでしょう。
そこで本記事では、IPOにおける監査法人の役割や選定のポイント、具体的な監査の内容、IPOまでの流れについて解説します。IPO準備に携わる経営者や管理部門の方、特に監査法人との関係構築に課題を感じている方は、ぜひ最後までご一読ください。
なぜIPOには監査法人が必要なのか?

IPO(新規株式公開)を目指す企業にとって監査法人の存在が必要不可欠な理由は、上場企業としての信頼性を確保するためです。監査法人は企業の財務報告の信頼性確保、内部統制の整備、そして上場準備における適切な監査対応という3つの極めて重要な役割を果たしています。
第一に、上場企業は多くの投資家から資金を調達する立場となるため、財務情報の正確性と透明性が強く求められます。この要件を満たすために、第三者である監査法人による客観的な監査が必要です。監査法人は、企業の財務諸表が適切に作成されているか、会計基準に準拠しているかを厳密にチェックし、その信頼性を証明します。
第二に、監査法人の役割は単なる財務諸表の監査にとどまりません。内部統制システムの整備状況の確認や、経営管理体制の評価なども重要な責務です。この包括的な監査を通じて、企業の健全性を担保し、投資家保護にも貢献しています。
第三に、監査法人による監査は、企業自身にとっても大きなメリットがあります。監査プロセスを通じて、財務報告における不備やリスクを早期に発見し、改善できます。上場審査をスムーズに進めることが可能となり、IPOの成功確率を高めることができるのです。
IPOにおける監査法人の役割

IPOを目指す企業にとって、監査法人は上場準備における重要なパートナーです。監査法人は、企業の財務情報の信頼性を担保し、上場に向けた体制整備を支援する専門家集団として不可欠な存在です。
監査法人の主な役割は以下の2つに大別されます。
- 監査証明業務
- 非監査証明業務
それぞれの業務内容は明確に区分されており、企業はIPO準備段階で両方のサービスを適切に活用することが求められます。以下では、この役割について詳しく解説します。
(1)監査証明業務
監査証明業務はIPOを目指す企業の財務諸表が適正に作成されているかを第三者の立場から検証し、証明する重要な役割です。金融商品取引法に基づき、監査法人は厳格な基準にしたがって監査を実施します。
具体的には、過去数年間の財務データを詳細に検証し、会計基準への準拠性や数値の正確性を確認します。この過程で、売上や費用の計上が適切か、資産・負債の評価が正しいかなど、さまざまな観点から精査を行います。
監査の結果は監査報告書として発行されます。この報告書は投資家や証券取引所に対して、企業の財務報告の信頼性を保証する重要な書類です。IPOを成功させるためには、無限定適正意見の取得が必須条件となっています。
(2)非監査証明業務
非監査証明業務は、IPO準備企業の経営基盤強化を支援する重要なアドバイザリー業務を指します。この業務では、監査法人が持つ専門知識や経験を活かし、さまざまな側面から企業をサポートします。
主な支援内容には、内部統制報告書(J-SOX対応)の作成支援が挙げられるでしょう。上場企業に求められる内部統制システムの構築や文書化をサポートし、実効性の高い管理体制の整備を進めます。また、IPO準備プロセス全体のスケジュール管理や、想定される課題への対応策の提案なども行います。
さらに、投資家や証券会社からの要求に応じた財務情報の提供支援や、国際会計基準(IFRS)への移行支援なども重要な役割です。この支援を通じて、企業は上場に必要な体制を効率的に整備できます。
IPOにおける監査の内容

IPO実現に向けて、監査法人は企業のさまざまな側面を詳細に確認・検証します。監査の主な内容は以下の4つに分類されます。
- 財務諸表の監査
- 内部統制の監査
- 経営管理体制の監査
- 予算管理体制の監査
この監査を通じて、企業の財務状況や内部管理体制の健全性、将来性などを総合的に評価します。それでは、各監査の具体的な内容について見ていきましょう。
(1)財務諸表の監査
財務諸表の監査では、企業の会計記録が正確で信頼できるものかを徹底的に検証します。監査法人は、企業が作成した
- 貸借対照表
- 損益計算書
- キャッシュフロー計算書
などの財務諸表が、適用される会計基準(日本基準やIFRSなど)に準拠しているかを確認します。
具体的には、売上高や費用の計上が適切な時期に行われているか、資産・負債の評価が適正か、関連当事者との取引が適切に開示されているかなどを重点的にチェックします。また、財務諸表の各項目間の整合性や、証憑書類との照合を行うこともあるでしょう。
この監査を通じて得られる監査証明は、投資家や規制当局に対して財務情報の信頼性を保証する重要な役割を果たします。そのため、IPOを目指す企業は、早い段階から正確な財務報告体制の構築に取り組む必要があります。
(2)内部統制の監査
内部統制の監査では、金融商品取引法に基づくJ-SOX制度に則り、内部統制報告書の作成に向けた評価と検証が行われます。監査法人は、企業の業務プロセスが適切に設計され、効果的に運用されているかを詳細に確認し、必要に応じて改善点を指摘します。
特に大切なのは、売上や購買、資金管理などの主要な業務プロセスにおけるリスク管理体制です。不正や誤謬(意図的ではない誤り)を防止・発見するための統制活動が適切に機能しているか、また、それらが文書化され、担当者に周知されているかを確認します。
内部統制の不備は、IPOの遅延や上場後の信頼性低下につながる可能性があるため、監査法人は改善すべき点を早期に指摘し、必要な対応策の実施を支援します。経営者は、この指摘を真摯に受け止め、継続的な改善に取り組むことが求められるのです。
(3)経営管理体制の監査
経営管理体制の監査では、企業のガバナンス体制が上場企業として求められる水準を満たしているかを検証します。取締役会や監査役会の運営状況、意思決定プロセスの適切性、各機関の役割分担の明確性などが主な確認ポイントです。
監査法人は、取締役会の開催頻度や議事内容、社外取締役の独立性、監査役による監督機能の実効性などを詳細にチェックします。また、企業がコーポレートガバナンス・コードに適切に対応しているかも確認され、必要に応じて指摘が行われます。
特に、上場企業としての透明性や説明責任を確保するため、情報開示体制や株主との対話体制の整備状況も重点的に確認されるでしょう。経営者は、この指摘を踏まえて、継続的なガバナンス体制の強化に取り組む必要があります。
(4)予算管理体制の監査
予算管理に関する監査手続きでは、企業の将来性と成長戦略を支える財務計画が適切に作成・運用されているかが確認されます。監査法人は、収益予測や資金計画が現実的な前提にもとづいて作成されているか、また、それらが経営計画と整合しているかを詳細に検証します。
各部門の予算執行状況のモニタリング体制や、予算と実績の差異分析プロセスも重要な確認ポイントです。予算の逸脱が発生した場合の対応手順や、修正アクションの実効性についても評価されます。
特に注目されるのは、IPO後の成長戦略を実現するための資金需要予測とキャッシュフロー計画です。設備投資計画や運転資金の見積もりが適切か、また、実現するための資金調達手段が確保されているかを慎重に確認します。この計画の実現性は、IPOの成否に大きく影響する重要な要素となります。
IPOで利用する監査法人の選定ポイント

IPO実現に向けて、適切な監査法人の選定は重要な意思決定の1つです。監査法人の選び方によって、IPOまでの道のりや上場後の経営にも大きな影響を与えることになります。
以下の4つのポイントを中心に、自社に最適な監査法人を選定することをおすすめします。
- IPO監査の実績が豊富か
- 企業規模や業種に適した対応力があるか
- サポート体制が充実しているか
- 費用対効果が高いか
それぞれ解説します。
(1)IPO監査の実績が豊富か
IPO監査において、監査法人の実績は極めて重要な選定基準となります。なぜなら、豊富な実績を持つ監査法人は、上場審査のポイントを熟知しており、効率的な監査プロセスを提供できるからです。
具体的には、同業種での上場支援実績や、直近の支援件数などが重要な判断材料となります。実績豊富な監査法人は、過去の経験から想定されるリスクや課題を事前に把握し、適切な対応策を提案できます。
このように、スムーズな上場審査の進行が期待でき、また証券取引所や投資家からの信頼性向上にもつながるのです。監査法人選定の際は、過去のIPO支援実績について詳しくヒアリングし、自社の状況に合った実績があるかを確認することをおすすめします。
(2)企業規模や業種に適した対応力があるか
企業規模や業種に適した監査法人の選定は、IPO成功の鍵を握ります。特に、各業界特有の会計処理や法規制への理解は、円滑な監査進行に不可欠な要素です。
例えば、製造業であれば原価計算や在庫管理、IT企業であれば収益認識やライセンス契約、サービス業であれば前受金の処理など、業種特有の会計処理に精通していることが重要です。また、中小企業やスタートアップ企業の場合、限られたリソースの中で効率的な監査対応が求められます。
このため、自社の規模や成長段階に応じた柔軟な支援体制を持つ監査法人を選定することで、将来の事業展開を見据えた適切なアドバイスを受けることができます。業界知見と規模に応じた対応力は、IPO準備における重要な選定基準ともなるでしょう。
(3)サポート体制が充実しているか
IPO準備において、監査法人の充実したサポート体制は成功への重要な要素です。内部統制の構築や会計処理の改善など、多岐にわたる準備作業には、きめ細かなサポートが不可欠だからです。
- 担当チームの体制
- レスポンスの速さ
- コミュニケーション方法
- 提供されるアドバイスの質
などが重要な判断ポイントです。充実したサポート体制を持つ監査法人は、問題発生時の迅速な対応や、予防的なアドバイスを提供できます。
このように、IPO準備の質が向上し、上場までの時間短縮にもつながります。監査法人選定時には、具体的なサポート内容や体制について詳細を確認し、自社のニーズに合致しているかを慎重に評価することが重要です。
(4)費用対効果が高いか
IPO監査における費用対効果の検討は、経営判断として重要です。監査報酬は企業にとって大きな投資となるため、提供されるサービスの内容と費用のバランスを慎重に評価する必要があるためです。
具体的には、以下のような明確な見積もりを取得します。
- 初期費用
- 年間監査報酬
- 追加で発生する可能性のある費用
また、監査以外の付随サービス(内部統制構築支援、会計方針の相談など)の範囲と、対する追加費用の有無も確認が必要です。
このような費用の透明性を確保することで、予算管理が容易になり、また想定外の支出を防ぐことができます。費用対効果の高い監査法人を選定することは、IPO準備の効率的な推進につながります。
IPOの流れ

IPOを実現するためには、企業は上場予定期(N期)から逆算して計画的に準備を進める必要があります。「N期」とはIPOを予定している決算期を指し、「N-1期」「N-2期」などは、それより1期前、2期前の決算期を意味します。
上場を目指す企業は、以下の主要なステップに取り組む必要があります。
- 監査法人を選定する
- 主幹事証券会社を決める
- 主要株主からの了承を得る
- 印刷会社を決める
- 株式事務代行機関を設置する
それぞれ参考にしてください。
(1)監査法人を選定する
第一に、IPO準備を本格的に開始するにあたり、N-3期までを目安に監査法人の選定を行う必要があります。
監査法人はIPOの適正性を証明する重要な役割を担います。選定にあたっては、IPO実績や業界知見、監査体制、費用などを総合的に評価することが重要です。
また、早期に監査契約を締結することで、上場に向けた財務体制の整備や内部統制システムの構築に関する助言を得ることができます。さらに、主幹事証券会社の選定前に監査法人を決定することで、より円滑なIPOプロセスを実現できます。
(2)主幹事証券会社を決める
第二に、IPOのN-3期、遅くともN-2の期初には主幹事証券会社を選定します。主幹事証券会社は、IPO手続き全体を主導する重要なパートナーです。
選定の際は、過去のIPO実績、対象業界への理解度、引受審査体制、営業ネットワークなどを総合的に評価します。また、上場までのスケジュール管理や引受審査への対応、株価の算定、投資家への営業活動など、多岐にわたるサポートを提供してくれる証券会社を選ぶことが重要です。
(3)主要株主からの了承を得る
第三に、IPOのN-3期までに主要な株主からIPOに関する了承を得る必要があります。この段階では、IPO計画の詳細な説明を行い、各株主の理解と同意を得ることが重要です。
特に、株主構成が上場基準を満たすよう調整が必要な場合は、早期に協議を始めることが望ましいです。また、株式の売出しや保有株式の継続所有に関する方針についても合意を形成する必要があります。
(4)印刷会社を決める
第四に、IPOのN-2期からN-1期までに印刷会社を決定します。IPOでは有価証券届出書や目論見書など、多くの重要書類の作成が必要となります。
この書類には高度な機密情報が含まれるため、情報管理体制が整った信頼性の高い印刷会社を選定することが重要です。また、スケジュールが切迫する中での急な修正にも対応できる機動力や、証券印刷の豊富な経験を持つ会社を選ぶことが望ましいです。
(5)株式事務代行機関を設置する
最後に、IPOのN-2期、遅くともN-1期までに株式事務代行機関を設置します。株式事務代行機関は、株主名簿の管理や株主への通知、配当金の支払いなど、上場企業として必要な株式事務を代行する重要な役割を担います。
選定にあたっては、豊富な実績と高い信頼性を持つ機関を選ぶことが重要です。また、株主総会運営のサポートや各種法定書類の作成支援など、包括的なサービスを提供できる機関を選定することで、上場後の円滑な株式事務運営が可能となります。
IPOでお悩みならReaLightへ
IPOでは、財務諸表の正確性や内部統制の強化が求められるため、適切なシステムの導入と運用体制の構築が不可欠です。特に経理業務のデジタル化や効率化は、上場準備における重要な要素となります。
ReaLightは、公認会計士や税理士などの専門家が在籍し、IPO準備企業の経理業務改善を支援しています。会計システムの導入支援から、経理業務のアウトソーシング、内部統制の構築まで、上場に向けた包括的なサポートを提供しています。
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