「内部統制システムの整備は、本当に必要なの?」と疑問を抱いている経営者や管理職の方も多いのではないでしょうか。法令遵守や業務効率化の重要性は理解していても、具体的な実施方法や効果的な運用に悩んでいる企業は少なくありません。
しかし、適切な内部統制システムの構築は単なる法的義務の履行にとどまらず、企業価値の向上や持続可能な成長につながる重要な取り組みです。
そこで本記事では、会社法と金融商品取引法に基づいた内部統制システムの基本から、最新の改正案への対応まで分かりやすく解説します。
企業のリスク管理を強化し透明性を高めたい方、社内教育やガイドライン作成に役立つ情報を知りたい方は、ぜひご一読ください。企業に最適な内部統制システム構築への道筋が見えてくるはずです。
内部統制システムとは?
内部統制システムとは、企業の健全な経営と透明性を確保するための仕組みです。日本では、「会社法」と「金融商品取引法」という2つの法律によって、一定の要件を満たす会社に内部統制システムの整備が義務付けられています。
2つの法律に基づく内部統制システムは、それぞれ異なる目的と定義を持っています。以下では、両法における内部統制システムの定義についてまとめました。
①:会社法における内部統制システムについて
会社法における内部統制システムは、企業における業務全般の適正性を確保するための包括的な仕組みとして定義されています。具体的には、会社法第362条4項6号において、以下のように規定されています。
「取締役の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社およびその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制」
出典:e-Govポータル「会社法」
この定義から分かるように、会社法における内部統制システムは、単に財務報告の信頼性だけでなく、企業グループ全体の業務の適正性を確保することが目的です。法令遵守、リスク管理、効率的な業務執行など、幅広い領域が含まれるのです。
要するに、会社法の内部統制システムは、企業の健全な経営と持続的な成長を支える基盤として位置づけられています。
②:金融商品取引法における内部統制システムについて
金融商品取引法における内部統制システムは、主に財務報告の信頼性確保に焦点を当てています。この法律では、内部統制システムを以下のように定義しています。
「財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制」
出典:e-Govポータル「金融商品取引法」
この定義は、会社法の定義と比べてより狭い範囲に特化しています。金融商品取引法の内部統制システムは、投資家保護の観点から、企業の財務情報の信頼性を確保することを主な目的とするものです。
例えば、財務諸表の作成プロセス、会計記録の正確性、開示情報の適切性などが挙げられます。金融商品取引法の内部統制システムは、特に上場企業や一定規模以上の企業に対して、財務報告の信頼性を担保するための厳格な体制整備を求めています。
会社法と金融商品取引法の内部統制システムはそれぞれ異なる目的と範囲を持っていますが、両者は相互に補完し合う関係にあるということです。つまり企業は、これら両方の要求事項を満たす包括的な内部統制システムを構築しなければなりません。
内部統制システムを整備する義務のある会社とは?
内部統制システムは、企業の健全な経営を支える重要な仕組みですが、すべての会社に整備義務があるわけではありません。法律によって、以下の条件を満たす会社にのみ、この義務が課せられています。
- 会社法:大会社である取締役会設置会社
- 金融商品取引法:有価証券報告書の提出義務を負う上場有価証券等の発行会社
ここでは、内部統制システムを整備する義務のある会社について詳しく見ていきましょう。
会社法:大会社である取締役会設置会社
会社法362条5項において、大会社である取締役会設置会社に対して内部統制システムを整備する義務が課せられています。
会社法2条6号に定義される「大会社」とは、以下のいずれかの条件を満たす株式会社のことを指します。
項目 | 条件 |
---|---|
資本金 | 5億円以上 |
負債 | 200億円以上 |
これらの条件のどちらかを満たし、かつ取締役会を設置している株式会社は、内部統制システムを整備する法的義務があります。
また会社の形態によっては、大会社でなくても内部統制システムの整備が求められます。
- 指名委員会等設置会社(会社法416条2項)
- 監査等委員会設置会社(会社法399条の13第2項)
上記の会社形態を採用している場合、規模に関わらず内部統制システムの整備が義務付けられています。
出典:e-Govポータル「会社法」
金融商品取引法:有価証券報告書の提出義務を負う上場有価証券等の発行会社
金融商品取引法は、特定の会社に内部統制システムの整備を求めています。対象となるのは、金融商品取引法24条の4の4第1項に基づき、以下の2つの条件を満たす会社です。
- 有価証券報告書の提出義務がある
- 金融商品取引所に上場されている有価証券(特定上場有価証券を除く)を発行している
出典:e-Govポータル「会社法」
実質的には、この条件は主に「上場会社」に該当します。条件を満たす会社は内部統制システムを整備し、その内容を「内部統制報告書」としてまとめ、開示する義務があるのです。
上場会社に対しては、投資家保護の観点から、より厳格な情報開示と内部管理体制が求められます。ただし、有価証券報告書の提出義務があるだけでは不十分で、実際に上場有価証券を発行しているかどうかも考慮されます。
このように、金融商品取引法に基づく内部統制システムの整備義務は、主に資本市場と直接関わる会社に適用されるのが特徴です。投資家の信頼を確保し、健全な資本市場を維持するためのルールです。
内部統制システムにある4つの役割
金融庁によると、内部統制システムには以下4つの主な役割があります。
- 業務の有効性および効率性
- 財務報告の信頼性
- 事業活動に関わる法令等の遵守
- 資産の保全
出典:金融庁「内部統制の基本的枠組み」
この役割を適切に果たすことで、組織は健全な経営を維持し、ステークホルダーの信頼を獲得できます。以下では、それぞれの役割についてまとめました。
役割①:業務の有効性および効率性
業務の有効性および効率性とは、組織の事業活動の目的達成のため、業務プロセスを最適化し、無駄を省きながら成果を上げることです。この役割は、組織の生産性向上と競争力強化に直結し、具体的な取り組みには以下が含まれます。
- 業務プロセスの標準化と改善
- 適切な権限委譲と責任の明確化
- 効果的な情報システムの導入と活用
- 従業員のスキル向上と動機付け
実践例として、製造業での生産ライン効率化や、サービス業での顧客対応時間短縮などが挙げられます。
この役割を果たすことで、組織はコスト削減と品質向上を同時に実現し、持続的な成長を達成できます。さらに、従業員の労働環境改善につながり、組織全体の活性化にも貢献するのです。
役割②:財務報告の信頼性
財務報告の信頼性とは、組織の財務状況を正確かつ公正に表示し、利害関係者に信頼できる情報を提供することを意味します。この役割は、投資家、債権者、規制当局など、さまざまなステークホルダーの意思決定に直接影響を与えます。
財務報告の信頼性を確保するための取り組みは、以下のとおりです。
- 適切な会計方針の選択と一貫した適用
- 正確な取引記録と適時の会計処理
- 財務諸表作成プロセスにおける内部チェック体制の構築
- 外部監査人との適切な連携
実践例として、不適切な会計処理を防ぐための内部統制システムの構築が挙げられます。
財務報告の信頼性を高めることで、組織は市場からの信頼を獲得し、資金調達の円滑化や企業価値の向上につながります。
適切な情報開示はコーポレートガバナンスの強化にも寄与し、組織の持続可能性を高めるものです。財務報告の信頼性は組織の透明性と誠実性を示す指標であり、長期的な成功には不可欠です。
役割③:事業活動に関わる法令等の遵守
事業活動に関わる法令等の遵守、いわゆるコンプライアンスは、組織が社会的責任を果たし、持続可能な事業運営を行うための基本的な要件です。この役割は、法的リスクの回避だけでなく、組織の倫理性と信頼性を高めるうえで非常に大切です。
コンプライアンスを確保するためには、以下のような取り組みが必要です。
- 関連法令の把握と社内規程への反映
- 従業員への定期的な教育・研修の実施
- 内部通報制度の整備と適切な運用
- 定期的な法令遵守状況の監査と是正
具体的な実践例としては、個人情報保護法に基づく顧客データの適切な管理や、労働基準法に則った労務管理の実施などが挙げられます。
法令等を遵守することは、組織が社会からの信頼を獲得し、ブランド価値の向上につながります。また、法的リスクを最小化することで、予期せぬ損失や風評被害を防ぐことができるのです。
コンプライアンスの向上によって、組織の社会的責任を果たし、持続可能な成長を実現しましょう。
役割④:資産の保全
資産の保全とは、組織が保有する有形・無形の資産を適切に管理し、不正や誤用から守ることを意味します。この役割は、組織の財産を守り、事業の継続性を確保するうえで欠かせません。
資産の保全を適切に行うためには、以下のような取り組みが必要です。
- 資産の取得、使用、処分に関する明確な手続きの策定
- 定期的な棚卸しと資産評価の実施
- 物理的・電子的なセキュリティ対策の実施
- 知的財産権の適切な管理と保護
実践例としては、現金や有価証券の管理における複数人によるチェック体制の構築や、重要な企業秘密に対するアクセス制限の設定などが挙げられます。
資産を適切に保全することで、組織は不正や誤用による損失を防ぎ、経営資源を効率的に活用できます。また、適切な資産管理は、財務報告の信頼性向上にも寄与し、投資家や債権者からの信頼獲得にもつながるものです。
内部統制システムを構成する6つの要素について
金融庁のガイドラインに基づき、内部統制システムを構成する6つの要素を解説します。これらの要素が有機的に結びつき、一体となって機能することで、内部統制の4つの役割を達成します。
- 統制環境
- リスクの評価と対応
- 統制活動
- 情報と伝達
- モニタリング
- IT(情報技術)への対応
各要素の理解と適切な実装は、組織の健全な運営と目標達成に不可欠です。
要素①:統制環境
統制環境は、内部統制システムの基礎となる要素で、組織の気風を決定してすべての構成員の統制に対する意識に影響を与えます。統制環境とは、以下のような事項です。
- 誠実性及び倫理観
- 経営者の意向及び姿勢
- 経営方針及び経営戦略
- 取締役会及び監査役又は監査委員会の有する機能
- 組織構造及び慣行
- 権限及び職責
- 人的資源に対する方針と管理
出典:金融庁「内部統制の基本的枠組み」
例えば、経営者が適正な会計処理や財務報告を尊重する姿勢を示し、これを実現するための方針や原則を明確化することは、財務報告の信頼性を達成するための重要な基盤となります。また、適切な組織構造や権限の分配、倫理規程の整備なども、統制環境の重要な要素です。
統制環境は、他の基本的要素の前提となるとともに、他の基本的要素に影響を与えるもっとも重要な基本的要素である。
出典:金融庁「内部統制の基本的枠組み」
ポイントは、統制環境が組織全体の内部統制の基盤となり、他の要素の有効性に大きな影響を与えるということです。適切な統制環境を整備することで、組織全体の内部統制システムの効果が高まります。
要素②:リスクの評価と対応
リスクの評価と対応は、組織目標の達成を阻害する要因を特定し、適切に管理するプロセスです。金融庁においては、以下のように定義されています。
リスクの評価とは、組織目標の達成に影響を与える事象について、組織目標の達成を阻害する要因をリスクとして識別、分析及び評価するプロセスをいう。
リスクへの対応とは、リスクの評価を受けて、当該リスクへの適切な対応を選択するプロセスをいう。 リスクへの対応に当たっては、評価されたリスクについて、その回避、低減、移転又は 受容等、適切な対応を選択する。
出典:金融庁「内部統制の基本的枠組み」
このプロセスは以下の段階で構成されます。
プロセスの段階 | 内容 |
---|---|
識別 | リスクとなる事象を特定 |
分類 | 全社的/業務別、既知/未知で分類 |
分析・評価 | 発生可能性と影響を見積もり |
対応 | 回避、低減、移転、受容等を選択 |
要するに、リスクの評価と対応は、組織が直面する潜在的な脅威を体系的に管理し、目標達成の可能性を高めるための重要なプロセスです。このプロセスを適切に行うことで、組織は予測可能なリスクに対して準備を整え、より効果的に対応できます。
要素③:統制活動
統制活動は、経営者の命令や指示が適切に実行されることを確保するために定められる方針と手続きです。定義は、以下のとおりです。
統制活動とは、経営者の命令及び指示が適切に実行されることを確保するために定める方針及び手続をいう。 統制活動には、権限及び職責の付与、職務の分掌等の広範な方針及び手続が含まれる。このような方針及び手続は、業務のプロセスに組み込まれるべきものであり、組織内の全ての者において遂行されることにより機能するものである。
出典:金融庁「内部統制の基本的枠組み」
方針や手続きは業務プロセスに組み込まれ、組織内のすべての者によって遂行されます。統制活動には以下のような要素が含まれます。
- 権限および職責の付与
- 職務の分掌
統制活動は、リスクの評価と対応と密接に関連しているのが特徴です。特定されたリスクに対応するために、適切な統制活動が設計され、実施されます。
つまり、統制活動が単なる規則や手続きの集合ではなく、組織の日常業務に組み込まれ、すべての構成員によって実践されるべきものだということです。効果的な統制活動は、組織目標の達成を支援し、リスクを適切に管理するための重要な手段となります。
要素④:情報と伝達
情報と伝達の要素は、組織内外の円滑なコミュニケーションを促進し、適切な意思決定と業務遂行を支援する重要な役割を果たしているものです。この要素の定義は、以下のとおりです。
情報と伝達とは、必要な情報が識別、把握及び処理され、組織内外及び関係者相互に正しく伝えられることを確保することをいう。組織内の全ての者が各々の職務の遂行に必要とする情報は、適時かつ適切に、識別、把握、処理及び伝達されなければならない。また、必要な情報が伝達されるだけでなく、それが受け手に正しく理解され、その情報を必要とする組織内の全ての者に共有されることが重要である。
出典:金融庁「内部統制の基本的枠組み」
つまり、以下のような側面が含まれます。
- 組織の目標達成に必要な情報を特定し、収集する仕組みを整備する
- 収集した情報を適切に分析し、意思決定に活用できる形に加工する
- 処理された情報を、必要な人々に適時かつ適切に伝達するシステムを構築する
- 組織内のすべての関係者が必要な情報を共有できる環境を整備する
例えば、財務報告に関する重要な情報が経理部門から経営陣へ迅速に伝達されるシステムを構築することで、適時に適切な意思決定が可能です。また、コンプライアンスに関する情報を全従業員に効果的に伝達することで、法令遵守に対する意識を高めることができます。
要素⑤:モニタリング
モニタリングは、内部統制システムが有効に機能していることを継続的に評価するプロセスです。以下のように定義されており、内部統制は常に監視、評価、そして必要に応じて是正されることになります。
モニタリングとは、内部統制が有効に機能していることを継続的に評価するプロセスをいう。モニタリングにより、内部統制は常に監視、評価及び是正されることになる。モニタリングには、業務に組み込まれて行われる日常的モニタリング及び業務から独立した視点から実施される独立的評価がある。両者は個別に又は組み合わせて行われる場合がある。
出典:金融庁「内部統制の基本的枠組み」
モニタリングをわかりやすくすると、主に以下の2つの形態があります。
項目 | 定義 | 例 |
---|---|---|
日常的モニタリング | 通常の業務活動に組み込まれた形で行われる | 上司による部下の業務チェック、定期的な在庫確認など |
独立的評価 | 業務から独立した立場で実施される評価 | 内部監査部門による監査、外部専門家によるレビューなど |
効果的なモニタリングシステムを構築するためのポイントは、以下のとおりです。
- 明確な評価基準の設定
- 定期的かつ継続的な実施
- 問題点の迅速な報告と対応
- モニタリング結果の適切なフィードバック
大切なのはモニタリングを通じて発見された問題点を適時に是正し、内部統制システムの継続的な改善につなげることです。組織の目標達成能力を高め、リスク管理の効果を向上させることができます。
要素⑥:IT(情報技術)への対応
IT(情報技術)への対応は、現代の組織運営において不可欠な要素となっています。この要素の目的は、以下のように、組織目標の達成のためにITを効果的かつ効率的に活用し、適切に管理することです。
ITへの対応とは、組織目標を達成するために予め適切な方針及び手続を定め、それを踏まえて、業務の実施において組織の内外のITに対し適時かつ適切に対応することをいう。 ITへの対応は、内部統制の他の基本的要素と必ずしも独立に存在するものではないが、組織の業務内容がITに大きく依存している場合や組織の情報システムがITを高度に取り入れている場合等には、内部統制の目的を達成するために不可欠の要素として、内部統制の有効性に係る判断の規準となる。 ITへの対応は、IT環境への対応とITの利用及び統制からなる。
出典:金融庁「内部統制の基本的枠組み」
ITへの対応には、主に以下の2つの側面があります。
項目 | 定義 | 例 |
---|---|---|
IT環境への対応 | 組織を取り巻くIT環境を理解し、適切に対応すること | クラウドサービスの利用、サイバーセキュリティ対策など |
ITの利用と統制 | 業務プロセスにITを効果的に組み込み、適切に管理すること | ERPシステムの導入、アクセス権限の管理など |
ITへの対応を適切に行うためのポイントには、以下があります。
- ITリスクの評価と対策
- ITガバナンスの確立
- ITセキュリティの強化
- ITスキルの向上と人材育成
ITへの対応は、組織のデジタル化を推進し、業務効率を向上させると同時に、ITに関連するリスクを適切に管理することが大切です。組織の競争力を高め、持続可能な成長を実現できます。
内部統制システムで定めるべき内容
内部統制システムは、企業の健全な経営を支える重要な基盤です。会社法施行規則第100条では、内部統制システムで定めるべき内容を3つのケースに分けて規定しています。
- すべての株式会社が共通で定める事項
- 監査役設置会社ではない場合の事項
- 監査役設置会社である場合の事項
この内容を適切に理解し、実装することで、効果的な内部統制システムの構築につながります。
内容①:すべての株式会社が共通で定める事項
会社法施行規則第100条第1項では、すべての株式会社が内部統制システムにおいて共通で定めるべき事項を規定しています。この事項は、企業の健全な運営と透明性の確保に不可欠な要素です。
一 当該株式会社の取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制
二 当該株式会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制
三 当該株式会社の取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
四 当該株式会社の使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
五 次に掲げる体制その他の当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制
イ 当該株式会社の子会社の取締役、執行役、業務を執行する社員、法第五百九十八条第一項の職務を行うべき者その他これらの者に相当する者(ハ及びニにおいて「取締役等」という。)の職務の執行に係る事項の当該株式会社への報告に関する体制
ロ 当該株式会社の子会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制
ハ 当該株式会社の子会社の取締役等の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
ニ 当該株式会社の子会社の取締役等及び使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
出典:e-Govポータル「会社法施行規則」
ここでのポイントは、企業グループ全体の内部統制を求めるものであるため、子会社の管理や報告体制、リスク管理、業務の効率性、コンプライアンスなどについて、グループ全体で整合性のとれた体制を構築することが重要です。
いずれにおいても企業の基本的な統制環境を整備し、リスク管理、業務効率化、法令遵守、グループガバナンスを確保するための基盤となるものです。各企業は、この要素を自社の実情に合わせて具体化し、実効性のある内部統制システムを構築することが求められます。
内容②:監査役設置会社ではない場合の事項
会社法施行規則第100条第2項では、監査役設置会社以外の株式会社に対して、追加的な内部統制システムの要件を定めています。
監査役設置会社以外の株式会社である場合には、前項に規定する体制には、取締役が株主に報告すべき事項の報告をするための体制を含むものとする。
出典:e-Govポータル「会社法施行規則」
この規定は、監査役がいない会社において、株主への適切な情報開示を確保するためのものです。具体的には、以下のような体制の整備が求められます。
- 定期的な株主総会の開催
- 株主向け報告書の作成と配布システム
- オンラインでの情報開示プラットフォームの構築
- 株主からの質問や要望に対応する窓口の設置
この体制を整備することで、監査役がいない場合でも、株主が会社の状況を適切に把握し、必要に応じて経営陣に質問や意見を述べる機会を確保できます。
単に情報を一方的に提供するだけでなく、株主とのコミュニケーションを双方向的に行える仕組みを作ることです。企業の透明性が高まり、株主との信頼関係を構築できます。
内容③:監査役設置会社である場合の事項
会社法施行規則第100条第3項では、監査役設置会社に対して、監査役の職務遂行を支援するための追加的な内部統制システムの要件を定めています。この要件は、監査役の独立性と実効性を確保するために重要です。
監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含む。)である場合には、第一項に規定する体制には、次に掲げる体制を含むものとする。
一 当該監査役設置会社の監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における当該使用人に関する事項
二 前号の使用人の当該監査役設置会社の取締役からの独立性に関する事項
三 当該監査役設置会社の監査役の第一号の使用人に対する指示の実効性の確保に関する事項
四 次に掲げる体制その他の当該監査役設置会社の監査役への報告に関する体制
イ当該監査役設置会社の取締役及び会計参与並びに使用人が当該監査役設置会社の監査役に報告をするための体制
ロ当該監査役設置会社の子会社の取締役、会計参与、監査役、執行役、業務を執行する社員、法第五百九十八条第一項の職務を行うべき者その他これらの者に相当する者及び使用人又はこれらの者から報告を受けた者が当該監査役設置会社の監査役に報告をするための体制
五 前号の報告をした者が当該報告をしたことを理由として不利な取扱いを受けないことを確保するための体制
六 当該監査役設置会社の監査役の職務の執行について生ずる費用の前払又は償還の手続その他の当該職務の執行について生ずる費用又は債務の処理に係る方針に関する事項
七 その他当該監査役設置会社の監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制
出典:e-Govポータル「会社法施行規則」
この要件は、監査役が経営陣から独立して、中立的に監査業務を遂行できるようにするためのものです。例えば、監査役専属のスタッフを置き、そのスタッフの人事評価を監査役が行うことで、取締役からの独立性を確保できます。
また、監査役への報告体制を整備し、報告者が不利益を被らないよう保護することで、企業内の問題を早期に発見し、対処できます。
この規定は監査役の機能を強化し、企業のガバナンスを向上させるための重要な要素です。各企業は、この要件を自社の状況に応じて具体化し、実効性のある監査体制を構築することが求められます。
関係者別に見る内部統制の求められる役割と責任
内部統制は組織内のすべての者によって遂行されるプロセスであり、それぞれの関係者が適切に役割を果たすことが重要です。以下では、主な関係者ごとに求められる役割と責任について解説します。
- 経営者
- 取締役会
- 監査役等
- 内部監査人
- 組織内のその他の者
各関係者には内部統制において求められる固有の役割と責任があります。この関係者が適切に連携し、それぞれの役割を果たせるような仕組みを整えることが、有効な内部統制の構築・運用につながります。
関係者①:経営者
経営者は、内部統制システムの構築と運用において中心的な役割を担います。組織のすべての活動に対して最終的な責任を負う立場にあり、内部統制の整備および運用に関しても重要な責務があります。
経営者は、その責任を果たすための手段として、社内組織を通じて内部統制の整備および運用(モニタリングを含む。)を行う。 経営者は、組織内のいずれの者よりも、統制環境に係る諸要因およびその他の内部統制の基本的要素に影響を与える組織の気風の決定に大きな影響力を有している。
出典:金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」
つまり経営者には、取締役会が決定した基本方針に基づいて内部統制システムを整備し、運用する責任があるのです。また、組織の風土や文化を形成するうえで大きな影響力を持つため、内部統制の重要性を社内に浸透させる役割も担っています。
要するに、経営者は内部統制システムの設計者であり、推進者でもあります。その姿勢や行動が、組織全体の内部統制に対する意識を左右することにつながるのです。
関係者②:取締役会
取締役会は、内部統制システムの基本方針を決定し、その運用を監督する重要な役割を担っています。
取締役会は、内部統制の整備および運用に係る基本方針を決定する。 取締役会は、経営者の業務執行を監督することから、経営者による内部統制の整備および運用に対しても監督責任を有している。 取締役会は、「全社的な内部統制」の重要な一部であるとともに、「業務プロセスに係る内部統制」における統制環境の一部である。
出典:金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」
つまり取締役会は、経営者が適切に内部統制システムを整備・運用しているかを監督する立場にあります。また、取締役会自体が内部統制の重要な構成要素であり、その機能が適切に果たされることで、組織全体の内部統制の質が向上します。
ポイントは、取締役会が内部統制の基本方針を決定し、その整備と運用を監督することで、組織全体の内部統制の方向性を定め、その実効性を確保する役割を果たすことです。
関係者③:監査役等
監査役等は、内部統制システムの運用状況を独立した立場から監視・検証する役割を担っています。
監査役等は、取締役および執行役の職務の執行に対する監査の一環として、独立した立場から、内部統制の整備および運用状況を監視、検証する役割と責任を有している。
出典:金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」
監査役等は、経営者や取締役会から独立した立場で、内部統制システムが適切に機能しているかを確認します。この独立性が、内部統制の客観的な評価を可能にし、システムの信頼性を高める重要な要素となります。
要するに、監査役等は内部統制システムの「番人」としての役割を果たし、その適切な運用を確保するうえで不可欠な存在です。
関係者④:内部監査人
内部監査人は、組織内部で内部統制システムの有効性を評価し、改善を促進する役割を担っています。
内部監査人は、内部統制の目的をより効果的に達成するために、内部統制の基本的要素の1つであるモニタリングの一環として、内部統制の整備および運用状況を検討、評価し、必要に応じて、その改善を促す職務を担っている。
(注) 本基準において、内部監査人とは、組織内の所属の名称の如何を問わず、内部統制の整備および運用状況を検討、評価し、その改善を促す職務を担う者および部署をいう。
出典:金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」
内部監査人は、日常的に内部統制システムの運用状況を監視し、問題点や改善の余地を見出す役割を果たします。その評価結果や改善案は、経営者や取締役会に報告され、内部統制システムの継続的な改善に活用されます。
大切なのは、内部監査人が組織の内部にいながらも、客観的な視点を保ちつつ内部統制システムを評価し、その実効性を高める役割を担っていることです。
関係者⑤:組織内のその他の者
内部統制システムは、組織全体で取り組むべきものであり、上記の役職以外の従業員も重要な役割を担っています。
内部統制は、組織内のすべての者によって遂行されるプロセスであることから、上記以外の組織内のその他の者も、自らの業務との関連において、有効な内部統制の整備および運用に一定の役割を担っている。
出典:金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」
すべての従業員が、自身の業務に関連する内部統制の仕組みを理解し、日常的に実践することが求められます。例えば、業務プロセスにおけるチェック機能や、情報の適切な取り扱いなど、それぞれの立場で内部統制に貢献できます。
ポイントは、内部統制が特定の部署や役職だけの責任ではなく、組織全体で取り組むべき課題であるという認識を持つことです。すべての従業員が内部統制の重要性を理解し、日々の業務の中で実践することで、より強固な内部統制システムが構築されます。
内部統制システムを適切に整備する際のポイント
内部統制システムを適切に整備することは、企業の健全な運営と持続的な成長にとって極めて重要です。ここでは、効果的な内部統制システムを構築するための4つの重要なポイントを紹介します。
- 法令上の要件にすべて対応している
- 全構成員が内部統制システムを理解している
- 構成員の役割が明確になっている
- 専門家に相談する
それでは、各ポイントについて詳しく見ていきましょう。
①:法令上の要件にすべて対応している
内部統制システムの整備において、最も基本的なポイントは、法令上の要件をすべて満たすことです。特に、会社法と金融商品取引法に基づいて内部統制システムの整備が義務付けられている企業は、これらの法令が求める全ての要件をカバーする必要があります。
以下の法令上の要件に対応することが大切です。
- 会社法
- 金融商品取引法
- 業種毎に対応すべき法律
内部統制システムの整備は、企業価値向上の機会と捉えるべきです。法令上の要件を全て満たすことは、内部統制システム整備の出発点であり、企業の健全性と信頼性を確保するうえで不可欠です。
②:全構成員が内部統制システムを理解している
内部統制システムの実効性を高めるには、企業の全構成員がその内容と重要性を十分に理解し、日々の業務で意識的に実践することが不可欠です。これは経営陣から一般従業員まで、全ての階層に当てはまります。
理解促進のための方法には、以下が挙げられます。
- 定期的な社内研修
- OJT
- eラーニング
- 社内ポータルサイトの活用
内部統制システムは企業全体で取り組むべき課題です。全員が自分の役割を理解し、積極的に参加することで、真に機能するシステムとなります。
ポイントは、内部統制システムを「自分事」として捉えてもらうことです。各自が内部統制システムへの貢献を意識して業務を行えば、システム全体の実効性は高まります。
③:構成員の役割が明確になっている
内部統制システムの効果的な機能は、企業の各構成員が適切に役割を果たすかどうかに大きく依存します。そのため、各構成員の役割と責任を明確に定義し、周知することが非常に大切です。
金融商品取引法上の評価・監査基準を参考にしつつ、以下のように自社の状況に応じた役割分担を行いましょう。
役割 | 主な責任 |
---|---|
経営者 | 全社的な内部統制の整備・運用 |
取締役会 | 監督機能 |
監査役等 | 独立した立場からの監査 |
内部監査人 | 日常的なモニタリング |
組織内のその他の者 | 日々の業務の中での実践 |
役割の明確化は、責任の所在を明らかにするだけでなく、各自が自信を持って業務に取り組むための基盤となります。
単に役割を割り当てるだけでなく、各構成員がその役割を十分に理解し、遂行できるよう支援することが大切です。定期的な研修やフィードバックセッションを通じて、各自の役割の意義を再確認し、必要なスキルを向上させる機会を提供することが効果的です。
④:専門家に相談する
内部統制システムの整備は複雑で専門的な知識を要する作業です。法令やガイドラインを正確に理解し、自社の状況に適した形で実装するには、専門家のアドバイスが有用です。
各専門家への相談のメリットは、以下のとおりです。
専門家 | 提供できるアドバイス |
---|---|
弁護士 | 法的要件を満たすシステム構築、最新の法改正や判例に基づく助言 |
公認会計士 | 財務報告の信頼性確保 |
税理士 | 税務上のリスク管理 |
専門家の知見を活用することで、より堅牢で効果的な内部統制システムを構築できます。専門家への相談はコストがかかりますが、長期的には法的リスクの低減や業務効率の向上につながり、結果的にコスト削減に寄与します。
専門家への相談は、内部統制システムの質を高め、その効果を最大化するための有益な投資のひとつです。自社の状況や課題に応じて、適切な専門家を選び、継続的に助言を受けることが望ましいでしょう。
内部統制システム設計のために業務効率化を目指そう
経理DXの活用により、内部統制システムの設計と業務効率化を同時に実現できます。内部統制システムの強化にあわせて企業に最適な経理業務体制を構築し、業務の効率化を目指しましょう。具体的な方法として以下が挙げられます。
- クラウド会計システムの導入
- 経理業務のアウトソーシング
- 決算業務の体制整備
これらの取り組みを効果的に実施するには、専門家のサポートがおすすめです。ReaLightでは、公認会計士や税理士などの専門家チームが、業務効率化や会計システム・周辺システムの導入支援、経理アウトソーシングを行っています。
IPO準備から日常の経理業務はもちろん、より強固で効率的な内部統制システムの構築が可能です。経理DXの導入や内部統制システムの設計についてご興味がありましたら、ぜひReaLightにお問い合わせください。