2023年10月からインボイス制度が開始しました。また、電子帳簿保存法も2022年に大きく改正され、2023年12月31日で宥恕措置が終了し、本格化しています。
「請求書の発行方法が変わるけど、具体的にどう対応すればいいの?」「電子データと紙の違いは?」など、インボイス制度の導入により、多くの事業者が電子帳簿保存法への対応に頭を悩ませています。
そこで今回は、インボイス制度と電子帳簿保存法の関係性を紐解き、適切な請求書発行の方法について詳しく解説します。新制度に対応した正しい請求書発行のポイントにも触れるため、ぜひ参考にしてください。
インボイス制度と電子帳簿保存法の概要
インボイス制度と電子帳簿保存法は、どちらも事業者の税務処理に大きな影響を与える制度です。それぞれの概要について、以下に分けて解説します。
- インボイス制度とは
- 電子帳簿保存法とは
では、詳しく見ていきましょう。
インボイス制度とは
インボイス制度とは、事業者が消費税を正確に納めるための制度であり、主に消費税の適正な徴収と透明性の確保を目的とした新しい仕組みです。
この制度の要点は、適格請求書(インボイス)の発行と活用にあります。
適格請求書(インボイス)は、事業者が納めるべき消費税額を明確に示すための書類です。売り手側が買い手側へ正確な適用税率や消費税額を伝える手段として使用されており、このインボイスを介したやり取りにより、買い手側は「仕入税額控除」を受けることができます。
ただし、この適格請求書を発行できるのは「適格請求書発行事業者」に限られます。適格請求書発行事業者になるためには、国に申請を行い、認可を受けなければなりません。
つまり、インボイス制度は消費税の取り扱いに関して、より厳格な管理と正確性を求める制度といえるでしょう。
電子帳簿保存法とは
電子帳簿保存法とは、デジタル時代に対応した税務関係書類の保存方法を定めた法律のことです。
この法律により、決算関係書類や各種帳簿などの税務関係帳簿・書類を電子データで保存することが認められるようになりました。
電子帳簿保存法では「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引データ保存」の3つの保存方法について定められています。「電子帳簿等保存」と「スキャナ保存」は事業者の任意で選択できますが、「電子取引」に関する文書の電子保存は義務化されています。
例えば「電子取引」について、請求書を電子メールやクラウドサービスを介して受け取った場合、従来のように紙に印刷して保存するのではなく、「電子請求書」として電子データのまま保存しなければなりません。
インボイス制度と電子帳簿保存法の関係性について
インボイス制度と電子帳簿保存法は、異なる目的を持つ制度でありながら、密接に関連しています。
インボイス制度が消費税の適正な徴収を目的とするのに対し、電子帳簿保存法はデジタル時代における税務関係書類の保存方法を規定しています。
両者の関係性は、以下のとおりです。
- 適格請求書は電子データによる保存も可能
- 適格請求書を電子で取引する場合、電子帳簿保存法に準じる必要がある
- 紙でやりとりした適格請求書には適用されない
それぞれ詳しく解説します。
1. 適格請求書は電子データによる保存も可能
インボイス制度において、適格請求書は紙の請求書や領収書だけでなく、電子データ(電磁的記録)による保存も認められています。デジタル化が進む現代のビジネス環境に対応するためです。
電子インボイス(デジタルインボイス)と呼ばれるこの形式は、従来の紙の請求書と同等の法的効力を持っており、電子インボイスを利用することで、発行や保管の手間を削減できるだけでなく、データの即時性や正確性も向上します。
ただし、電子インボイスを採用する際は、次に説明する電子帳簿保存法との関連性に注意を払わなければなりません。
2. 適格請求書を電子で取引する場合、電子帳簿保存法に準じる必要がある
適格請求書を電子取引によって授受する場合、電子帳簿保存法に準じた方法での保存が義務付けられています。
電子取引には、電子メール、EDI取引、Webサイトを通じた授受などが含まれ、これらのデジタルデータの真実性と可視性を確保する要件を満たさなければなりません。
例えば、デジタルデータで適格請求書を提供または受領した場合、単にデータをハードディスクに保存するだけでは不十分です。後ほど詳しく説明しますが、電子帳簿保存法が定める要件である検索機能の確保や改ざん防止措置などを満たす必要があります。
これにより、税務調査の際にも迅速かつ正確な情報提供が可能となり、企業の透明性と信頼性の向上にもつながります。
3. 紙でやりとりした適格請求書には適用されない
一方で、紙で発行された適格請求書や、紙で発行して交付した適格請求書の控えについては、電子帳簿保存法の適用を受けません。この書類に関しては、従来通り紙のまま保存できます。
ただし、紙の請求書をスキャンして電子保存することも可能です。この場合、電子帳簿保存法のスキャナ保存は任意ではありますが、スキャナ保存の要件を満たせば電子保存できます。
この方法を選択すれば、紙の保管に伴う物理的なスペースの問題や、書類の紛失リスクを軽減できます。
それでは次に、インボイス制度と電子帳簿保存法の要件を同時に満たすための具体的な条件について見ていきましょう。この条件を理解し、適切に対応することで、効率的かつ法令遵守した請求書管理が可能となります。
インボイス制度と電子帳簿保存法に準拠するための条件
インボイス制度と電子帳簿保存法の要件を同時に満たすためには、適切な対応が必要となりますが、両者の制度に準拠することで、取引の透明性が向上するだけでなく、業務効率化にもつながります。
両者に準拠するため押さえておくべき主な条件は、以下の2つです。
- 真実性の確保
- 可視性の確保
それでは、各条件の詳細を見ていきましょう。
条件1.真実性の確保
真実性の確保は、電子データの信頼性を担保するための重要な条件です。具体的には、改ざん防止のための措置として、以下のいずれかの対策を講じる必要があります。
- タイムスタンプが付与された取引情報を受領する方法
- 取引情報の受領後、速やかにタイムスタンプを付与し、保存の実行者または監視者に関する情報を確認可能な環境を整える方法
- 訂正・削除したことを確認できるシステム、もしくは訂正・削除ができないシステムで取引情報の受領・保存を行う方法
- 訂正・削除の防止に関する事務処理規定を定め、それに沿った運用を行う方法
この措置により、電子データの改ざんリスクを最小限に抑え、データの信頼性と完全性を確保できます。特に、タイムスタンプの活用は、データの作成時刻や更新履歴を明確に記録するため、真実性の確保に大きく貢献します。
参考:国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】Ⅱ 適用要件【基本的事項】」
条件2.可視性の確保
可視性の確保は、電子データを適切に管理し、必要に応じて閲覧・検索できる環境を整えることを意味します。この条件を満たすためには、以下の3つの保存要件があります。
- 関連書類の備え付け
- 見読性の確保
- 検索機能の確保
この要件を満たすことで、電子データの管理と活用が効率的に行えます。
①:関連書類の備え付け
関連書類の備え付けは、電子データの管理システムを明確に説明するための要件です。具体的には、システムの概要を記載した関連書類を備え付けなければなりません。主に、システム概要書やシステム基本設計書などが含まれます。
この文書を用意することで、システムの構造や機能を第三者にも分かりやすく説明できます。また、税務調査の際にも、電子データの保存方法や管理体制を迅速に説明できるため、スムーズな対応が可能です。
②:見読性の確保
見読性の確保は、保存された電子データを必要に応じて閲覧できる環境を整えることを意味します。具体的には、以下の対応が必要です。
- 保存場所に、電子計算機・プログラム・ディスプレイ・プリンタの操作説明書を備え付ける
- 電磁的記録をディスプレイの画面および書面に整った形式および明瞭な状態で直ちに出力できるようにしておく
この対応により、保存された電子データを必要なときにすぐに確認できる環境が整います。特に、データを画面上で閲覧するだけでなく、ケースに応じて印刷出力できる体制を整えることが大切です。これにより、税務調査や内部監査の際にも、迅速かつ適切な対応が可能となります。
③:検索機能の確保
検索機能の確保は、膨大な電子データの中から情報を素早く取りだすために不可欠な要件です。具体的には、以下の条件で検索できる必要があります。
- 「取引年月日」「取引先」「取引金額」の3つの項目での検索
- 「取引年月日」または「取引金額」の範囲を指定することによる検索
- 複数の記録項目の組み合わせによる検索
検索機能を実装することで、大量の電子データの中から取引情報を迅速に抽出できます。例えば、特定の期間内の取引や、特定の取引先との取引を簡単に確認できます。この機能は、日常の経理業務の効率化だけでなく、税務調査への対応にも大いに役立つでしょう。
参考:国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】Ⅱ 適用要件【基本的事項】」
【具体例】メールに電子化されたインボイスが添付されている場合
電子化されたインボイスをメールで受け取る場合、以下のような対応が必要になります。
- メールシステム内にメール自体を保存する
- ファイル名を検索の要件を満たしたものにする
- 訂正や削除防止に関する事務処理規程を作成し、備え付けておく
- 索引簿を作成・管理する
1~4の対応により、メールで受け取った電子インボイスも適切に管理・保存できます。
例えば、検索要件を満たすファイル名の付与において、「取引年月日_取引先名_取引金額」のようにルールを明確にしておくことで、後から容易に検索することができます。
また、事務処理規程の作成と索引簿の管理は、組織的な取り組みとして電子データを適切に扱っていることを示す証拠となるものです。
この対応を確実に行うことで、インボイス制度と電子帳簿保存法の両方の要件を満たすことができ、適切な税務処理と効率的な業務運営が可能となります。
インボイス制度と電子帳簿保存法は同時に対応するのがおすすめ
インボイス制度の導入と電子帳簿保存法の改正により、多くの企業が経理部門のデジタルトランスフォーメーション(DX)に着手し始めています。この制度変更は、企業の経理業務に大きな影響を与えるため、同時に対応することが効率的かつ効果的です。
確かに、自社のみで対応することも可能ですが、リソース不足など、多くの負担が予想されます。特に、インボイス制度と電子帳簿保存法には遵守すべき厳格なルールがあり、処理する文書が多い企業ほど対応に追われることになりかねません。
このような状況下では、専門的なシステムの活用を検討するのがおすすめです。適切なシステムを導入することで、以下のようなメリットが得られます。
メリット | 説明 |
---|---|
法令順守の確実性向上 | システムが自動的に法令を満たす処理を行い、人為的ミスを減らせる |
業務効率の改善 | 手作業が減り、経理担当者の負担が軽減される |
データの正確性と一貫性の確保 | システム化でデータ入力や処理の精度が向上する |
将来の制度変更への柔軟な対応 | システムのアップデートで法改正にも迅速に対応できる |
この機会を活用し、インボイス制度と電子帳簿保存法への対応を同時に進めることで、企業の経理業務を大きく効率化し、将来的な成長の基盤を整えることができるでしょう。
インボイス制度と電子帳簿保存法に対応できる会計ソフトを導入しよう
ここまで見てきたように、インボイス制度と電子帳簿保存法への対応は、企業の経理業務の刷新が必要です。この変化に適切に対応するためには、専門的な知識と効率的なシステムの導入が不可欠です。
しかし、自社だけで対応するには多くの課題が伴います。リソースの不足、法令遵守の複雑さ、システム導入の困難さなど、多くの企業が苦心しているのが現状です。そこで、この課題を解決し、スムーズな移行を実現する方法として、会計ソフトの導入支援が注目されています。
会計ソフトの導入支援を受けることで、自社に適したソフトによってインボイス制度や電子帳簿保存法に遵守した処理をスムーズに行うことができ、企業の信頼性の向上につながります。
弊社ReaLightでは、公認会計士による会計ソフトや周辺システムの導入診断から導入サポート、また経理のアウトソーシングや業務効率化のご相談まで、一貫したサービスを提供しております。
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