9月も下旬になってきて、暑さも和らぎ過ごしやすい季節になってきました。皆様いかがお過ごしでしょうか?
この10月から緊急事態宣言が明けるかどうか、という中で少しずつ経済状況も良くなるといいなと思う反面、Withコロナの時代はまだこれから数年続く可能性もあると考えると、先行きに依然として不安を持っていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
先行きが見えない激動の時代に、経理や会計の業界で考えてみても、ひと昔前であれば我々が「経理」のご支援をさせていただくとしたら、「記帳の方法」のご相談だったり、「税務申告」のご相談だったり、会計・税務の専門家に、会計・税務の制度そのものの知識をご相談いただくことが多かったと思います。
一方で今はどうでしょうか。「記帳の方法」や「税務申告」の知識そのものはインターネットで調べればすぐに学ぶことができるようになっています。敢えて専門家に聞くことの価値は、そのインターネットでの調べることの手間や理解するための労力を、専門家にお任せすることに他ならないとも言えます。
と考えると…、これからの会計・税務の専門家の存在意義は何なのでしょうか。さらに高度な専門性の高い領域、例えばM&Aのご相談や、インターネットで調べてもまだまだ情報が足らない領域、例えば会計・税務に関連する様々なITツール(会計システム・業務管理ツール・経営状況の見える化ツールなどなど)の導入のご相談、といったことが求められる時代になって来ている、と言えるかもしれません。
現在、我々のサービスラインの一つとして「経理DX」のご支援を実施させていただいています。今回、この「経理DX」がどのように進み、どのような未来が待っているか、私なりの考察をお伝えできればと思います。
経理DXとは
「経理DX」とは、何でしょうか?「DX」は「Digital Transformation(デジタル トランスフォーメーション)」の略ですから、直訳すれば「経理をデジタル変革する」という意味になりそうでしょうか。よく「デジタル化」と「DX」は違うと言われますが、「DX」というワードがバクっとしすぎていて、違いが分からないというのが多くの方の感想かなと思います。
DXの話になると、概念的な話になって具体性に欠けることが一般的には多く、結局は「デジタル化」的な、例えば「紙の資料はPDFにしよう」とか「クラウドにして全員がデータを共有できるようにしよう」とか、そういった話になることが多いと思います。
そこで、本当の意味での「経理DX」とは何か、何のために「経理DX」が必要なのか、を以下で改めて考えてみたいと思います。
デジタルトランスフォーメーションの本質
そもそも、経理DXは何のために実施する必要があるのでしょうか?今一度考えてみたいと思います。
たとえば、経理DXを実現したその先にあるのは、「経理の全自動化」が多くの人がもつイメージであり、その更に先にあるのは「経理にかけるコストが減り、会社の利益を生む」というイメージでしょうか。
経理のコストカットというと、経理人員を整理し他部門への充当したり、経理パート社員や派遣社員の方の契約を解消する、といったことになりそうです。でも、そのために経理DXを実施するのでしょうか。もちろん、経理にかけるコストを減らしたい、という思いは多くの経営者の方が抱かれることかもしれません。
しかしそれ以上に、日本の経理に起こっている現状に照らすと、なぜ今経理DXが必要になっているのか、が分かってきます。その本質は、「中堅中小企業の経理人材不足」にあります。
今、経理に何が起こっているのか
今、日本の経理には何が起こっているのでしょうか。それは、経理人材の不足です。経理に関連するお仕事をされている方でしたら、昨今よく耳にするようになっているかと思います。特に、中堅・中小企業の経理人材が少なく、採用に苦労されているお声をよく聞きます。これはなぜ起こっているのでしょうか。それには、「大企業」「中堅中小企業」「ベンチャー企業」の3つに会社を分類した場合に、以下のような状況になっているからと考えられます。
大企業
- 大企業に成長するまでの中で、成長の過程を大きく支えた経理人材が、現在の経理や財務の責任者になっている。あるいは外部から優秀なCFO人材が招聘されてきている。
- バブル崩壊後、不景気の中で経理部門の採用を積極化せず、限られた経理人員で業務を回していたが、昔に比べて事業が多角化したり、海外進出が進んだり、会計基準や税制が複雑化したことによって、昨今は景気の回復も相まって、優秀な経理人材をそれなりの給与で募集し、それなりの人材が集まってきているとも考えられる。
⇒結論として、大企業では相対的には経理人材はそれなりに集まっているはず、という仮説です。もちろん、大企業も「経理DXを推進していこう」という流れはありますが、下記に記載する中堅中小企業ほど、緊急性が高いわけではない会社もあると思います。
中堅中小企業
- 上記の大企業ほどでは無いにしても、成長の過程を大きく支えた経理人材が、現在の経理や財務の責任者になっている。社長からの信頼も厚く、辞めるインセンティブはあまりない。
- 問題なのは、不景気の間、大企業以上に経理への投資がなされず、上記の特定の経理人材に業務が集中し、属人化している状態が想定される。
- 成長過程の中で、業務量的には増えてきている中で、コストをかけずに経理を回すためには、パート社員や派遣社員を採用して経理業務を回しているケースが多い。
- ただ、今後のさらなる成長を考えると、パート社員・派遣社員が辞めてしまったときの対応策として(あるいは辞めてしまったことを受けて)、経理業務の効率化を図りたいというニーズや、属人化した経理業務を他に引き継げるように標準化しておきたい、というニーズがある。
⇒結論として、中堅・中小企業の経理人材が少なく、これが今経理DXが求められている理由の一つになっています。そのため、単に経理にかけるコストを削減したい、ということだけではなく、経理リソースのひっ迫や属人化によって、経理DXを進めないと経理が今後回っていかない、というのが現状なのだと思います。
ベンチャー企業
- 立上げ間もない企業であれば、経理にコストをかけることができず、今いる社員の中で業務分担して経理業務を行うか、顧問税理士へ完全に依頼しているケースも多いと考えられる。
⇒このフェーズの会社であれば、顧問税理士へ依頼するケースが多いことから、経理DXの恩恵を一番受けるのは、記帳代行だったりを実施する顧問税理士側のようにも思われます。クラウド会計を広めるパートナーとして税理士が中心になっているのも、この理由で、いわば税理士のための経理DXと言えるかもしれません。ただ、このフェーズで一通り出来ていれば、成長した後も比較的スムーズにDXを推進できるということにはなるかもしれません。
このように考えると、あくまで仮説ではありますが、一番経理人材を求めていて、それを契機に経理DXを進めたいというニーズをもっているのは、中堅中小企業ということになりそうです。
これからの時代の経理
では、これからの時代、経理DXはどのように進んでいくのでしょうか?特に、中堅中小企業で経理DXが進んでいったその先には、何があるのでしょうか?
よく、経理業務はいずれAIに全て置き換わると言われたりします。これが経理DXの最終形でしょうか。経理関連のITツールがどんどん出てきて自動化が進むと、果たして経理人材は本当に不要になるのでしょうか。そんなことはないと筆者は考えます。
たとえば、売上を計上するにしても請求書を発行するにしても、その数字を決めている大元は、顧客と営業の交渉だったり、人と人とのコミュニケーションの上で決まるものもあり、その結果を誰かがツールに入力しなければ、経理処理はできないでしょう。つまり、売上金額の数値や仕入金額の数値等は、最終的な交渉や人と人との付き合い関係が少なからず影響するはずで、この結果決まった内容を人がツールに反映する行為も、少なからず発生するはずです。
この他にも、請求書の内容が予算や稟議と照らして妥当なものかを一旦は機械的に判断できても、最終的に責任を追うべきは各部署の責任者でしょうし、その上で、内容や会計処理の妥当性を不正防止の観点から経理がチェックするという、半ば監査的な意味合いは経理に残ると思います。
更に、財務数値を経営者やステークホルダーに説明したりすることは今後も残っていくと考えると、数値をただ会計のツールに反映する人材はやがて不要になってくるとしても、営業や購買で情報をインプットする人は必要なうえ、数値の番人として不正チェックのお目付け役として、対内・対外的に数値の内容を説明する責任を負うCFO的な人は変わらず必要であると考えられます。
そのため、中期的な目線と、長期的な目線に立った場合、これからの経理DXは以下のようになると思います。
中期的な目線
中堅中小企業の経理人材が足りない。それは、経理処理自体のリソースも足りない上、従来から経理を担当している人の後継者の人材としても足りない。しかし、中小企業にはそこまでの人材が来ない。それは報酬が安いという問題もあるが、そもそも若手でそのような経理人材自体が少ないというこれまでの日本の問題を示している。
したがって、中堅中小企業の経理DXを進めるために、現在の経理DXに関連するツールに比較的詳しく、中堅中小企業のサポートができる若手の経理DX人材が必要である。これなくしては中堅中小企業の現状の経理業務を変えることは出来ない。
長期的な視点
経理業務効率化がある程度実施されてくると、先に述べたようにCFO人材が求められてくる。今もCFO人材のニーズはあるが、経理DXが進むと逆説的に人としての財務数値の説明責任を負うことのできるCFO人材がより求められるようになる。
このように経理DXのこれからを考えると、逆説的に「人」の必要性が浮き彫りになる、というのがこの記事で一番言いたかったことかもしれません。DXの話をしているのに、やはり一番大事なのは「人」というのが、経理に限らずこれからの世界全体に言えることなのかもしれません。
経理DXと会計システム
経理DXのこれからを、私見ではありますが説明させていただきました。経理DXという言葉に馴染みのない方も多いかもしれませんが、これからの経理がどのようになっていくか、一つの仮説として読んでいただけたら幸いです。
弊社では、上記で記載させていただいたような「若手の経理DX人材」のコンサルタントが多数在籍しております。
実際に経理業務に従事されている方等で、もし会計システム導入・変更等をはじめとして経理DX関連で何かお困りのことがありましたら、お気軽にご連絡をいただければ幸いです。
担当:山本 雄三