AI技術の力を借りて経理業務を効率化できないかと考えたことはありませんか?
請求書の処理、経費の精算、月次決算…。これらの反復作業に多くの時間を費やし、コア業務に集中できないというジレンマを抱えている方も多いでしょう。
そこで注目されているのがAIですが、具体的にどのように活用すればいいのかイメージが湧きにくい方もいらっしゃるかと思います。本記事では、AIを活用した経理業務の効率化について、基礎から実践的な活用方法まで詳しく解説します。ぜひ最後までご一読ください。
経理業務にAI活用が求められている背景とは?
経理業務におけるAI活用の必要性が高まっている背景には、複数の要因が絡み合っています。
まず要因の1つ目は、近年の法改正による業務の複雑化です。
電子帳簿保存法やインボイス制度の導入により、経理担当者の負担は増大しています。この制度変更に対応するには、より正確で効率的な業務処理が求められます。
次に、要因の2つ目として、日々の反復作業に費やされる膨大な時間が大きな課題となっています。
請求書の処理、経費の精算、月次決算など、定型的な作業に多くの時間を割かれることで、より戦略的な業務に注力できないというジレンマが生じています。このような状況下で、AIの活用は時間と労力の節約、そして人為的ミスの削減につながる有効な解決策として注目されているのです。
さらに、要因の3つ目として、デジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性が経理部門にも求められていることも見逃せません。企業全体の効率化と競争力の強化のために、経理部門もデジタル化とAI活用を推進する必要性に迫られていることが挙げられます。
このように、法改正への対応、業務効率化の要求、そしてDXの推進という複合的な要因により、経理業務におけるAI活用の重要性が高まっています。AIを適切に導入することでこの課題に対応し、経理部門の生産性と価値の向上を狙う必要があるのです。
AIが代行できる業務の例
AIは経理業務の多くの面で活用できますが、すべての業務を完全に代替できるわけではありません。例えば、従業員の特殊な税金計算など、例外的な判断が必要な業務はAIによる代替が難しいのが現状です。
しかし、多くの定型業務やデータ処理においては、AIの活用が大きな効果を発揮します。以下にて、AIが特に得意とする定型業務とデータ処理について紹介します。
例①:定型業務
AIは処理の作業手順が決まっている「定型業務」を得意としています。経理部門では、日々多くの定型業務が発生しますが、この多くをAIに任せることができます。
例えば、請求書の処理や経費の精算、給与計算などが一例です。これらの業務の一部は、一定のルールに基づいて処理可能なため、すべての処理を経理担当者が担当しなくても、条件を設定すればAIで処理可能です。
また、手作業で処理する場合に比べ、処理速度が格段に向上し、人為的ミスも減少します。さらに、AIは学習能力を持っていることから、回数を重ねるごとに効率的かつ正確に業務をこなすようになります。
この定型業務のAI化により、経理担当者は単純作業から解放され、より付加価値の高い業務に注力できるようになるでしょう。
例②:大量のデータ処理
AIはボリュームの大きな「大量のデータ処理」も得意としています。経理業務では日々膨大な量のデータが集まり、適切に処理し、分析することが求められます。
この点で、AIの活用は効果的です。例えば、大量の取引データを分類し、仕訳計上や異常値の検出を行い、財務分析まで高速で処理できます。また、その工程で処理パターンを認識し、異常値を検出する精度も向上していきます。
人では時間がかかる作業や、見落としがちな異常値も、AIであれば高い精度で実行できます。さらに、AIは過去のデータを学習し、売上予測や資金繰り予測などで経営判断もサポート可能です。
経理部門の役割を「数字の管理」から「経営への積極的な貢献」へと進化させる大きな転換点となるでしょう。
経理業務の効率化が目指せる代表的なAI技術
ここでは、経理業務の効率化で特に注目される3つの代表的なAI技術を紹介します。この技術を理解することで、自社の経理業務にどのようにAIを導入できるか、具体的なイメージが湧いてくるでしょう。
- AI-OCR
- 機械学習
- チャットボット
それでは、各技術の詳細を見ていきましょう。
技術①:AI-OCR
AI-OCRは、従来のOCR(光学文字認識)技術にAIを組み合わせた技術です。
OCRは紙の文書をデジタル化する際に使用されますが、AI-OCRはさらに一歩進んで、判読しづらい手書き文字や複雑なレイアウトの文書も高精度で読み取ることができます。
この技術の特徴は、学習能力を持っていることです。使用するほどに精度が向上し、企業固有の書式や特殊な文字にも対応できます。
例えば、請求書や領収書の処理において、AI-OCRは文字の認識だけでなく、金額、日付、取引先などの情報を自動的に抽出し、適切なフィールドに振りわけることができます。
要するに、AI-OCRの導入により、経理担当者は膨大な量の紙の文書をデジタル化する作業から解放され、データ入力にかかる時間と労力を削減できるのです。
技術②:機械学習
機械学習は、大量のデータを分析し、そこから規則性やパターンを見出すAIの中核を成す技術の1つです。経理業務において、機械学習は請求書の処理、経費の調査、取引の監査など、様々な場面で活用できます。
例えば、請求書の処理では、機械学習アルゴリズムが過去の取引データを学習することで、新しい請求書を自動的に分類し、適切な勘定科目を割り当てるなどが活用例です。また、経費の調査においては、通常とは異なる支出パターンを検出し、不正や誤りを早期に発見できます。
さらに、機械学習は予測分析にも有効です。過去のデータから将来のキャッシュフローを予測したり、予算策定をサポートしたりするなど、経営判断に貴重な洞察を得られます。
機械学習の導入により、経理担当者は単純な数字の処理ではなく、データに基づく戦略的な意思決定支援という、より高度な役割を担えるようになるでしょう。
技術③:チャットボット
チャットボットは、AI技術の自然言語処理と機械学習を活用した、自動会話プログラムです。経理部門では、社内外からの問い合わせ対応に活用することで、業務効率を向上できます。
例えば、従業員からの給与や経費精算に関する質問、取引先からの支払い状況の確認などが代替可能です。日々発生する問い合わせの多くをチャットボットによって24時間365日、即座に対応できます。
結果として、経理担当者は頻繁に発生する問い合わせ対応に時間が割かれることなく、他の業務に集中できます。また、AIでは解決できない経理担当者が対応すべき複雑な質問を識別し、適切に振りわけることも可能です。
チャットボットの導入は、経理部門の業務効率を向上させるだけでなく、社内外とのコミュニケーションの質を高め、経理サービスの満足度向上にもつながるものです。経理担当者不在時でも迅速な対応が可能になり、業務の連続性と生産性の向上が期待できます。
経理業務におけるAIの具体的な活用方法・シーン
ここでは、経理業務におけるAIの具体的な活用方法・シーンを紹介します。以下の4つの例を参考に、自社の経理業務にどのようにAIを導入できるか、イメージしてみてください。
- 領収書・請求書の読み取りと保存
- 明細データの仕訳計上作業・帳簿作成
- 監査や決算書等の確認
- 社内向けチャットボットの活用
それぞれ詳しく見ていきましょう。
活用方法①:領収書・請求書の読み取りと保存
AIを活用した領収書・請求書の読み取りと保存は、経理業務の効率化に大きく貢献します。
従来の方法では、経理担当者が目視で内容をチェックし、手作業で会計ソフトやExcelに転記する必要がありました。しかし、AIを導入することで、この作業を効率化できます。
具体的には、従業員が経費精算ソフトに領収書や請求書をアップロードすると、AIが自動的に読み取ります。さらに、AI-OCRで読み取ったデータから自動的に仕訳を作成し、会計ソフトに登録することが可能です。
この方法のポイントは、人為的ミスの削減と作業時間の短縮です。AIによる自動読み取りと登録により、転記ミスを防ぎ、経理担当者の負担を軽減できます。もちろん、登録前に担当者が確認できるように設定することも可能です。
このように、より戦略的な業務に時間を割くことが可能になり、経理部門全体の生産性向上につながるのです。
活用方法②:明細データの仕訳計上・帳簿作成
AIを活用した明細データの仕訳計上作業と帳簿作成は、経理業務の自動化を一歩進めた例です。銀行やクレジットカード、ICカードなどの明細データの勘定科目を、AIが自動的に判別・提案し、自動的に仕訳を計上し、会計ソフトに登録します。
例えば、「〇〇駅」といった文字をAIが認識すると、「旅費交通費」という勘定科目を自動的に提案します。このような自動判別と仕訳登録により、伝票入力や消し込み作業を自動化でき、帳簿作成業務にかかる時間を短縮できるわけです。
また、回数を重ねるごとに、AIは企業特有の取引パターンを学習し、より正確な判別と提案ができます。このように、単純な入力作業はAIに任せることで、経理担当者はデータの分析や異常値の原因検証など、より高度な業務に注力できるでしょう。
活用方法③:監査や決算書等の確認
監査や決算書の確認にAIを活用することで、経理業務の精度と効率を向上できます。AIによって決算や月次監査などのチェックにおいて、自動化で監査に要する時間を短縮するとともに、チェックの正確性向上も期待できるためです。
AIは大量のデータを高速で処理して異常値や不整合を検出でき、人の目では見落としがちな微細な誤りも捉えることができます。さらに、人の手がかからない監査を実現できれば、経理担当者による意図的な不正の防止にもつながるでしょう。
AIが異常を検出し、人間がその結果を検証し判断するという流れを作ることで、監査の質と効率を同時に向上できるのです。経理担当者は、AIのサポートを受けながら、より高度な分析や戦略的な判断に集中できるでしょう。
活用方法④:社内向けチャットボットの活用
社内向けチャットボットの活用は、経理部門の業務効率を向上することでもよく知られています。AIを搭載したチャットボットを設置できれば、従業員からの問い合わせの多くをAIに任せることができるためです。
例えば、給与明細の見方や経費申請の手順、支払いスケジュールの確認など、頻繁に発生する問い合わせに対して、チャットボットが24時間365日、経理担当者に代わり、即座に回答します。
また、経理担当者が対応すべき複雑な質問を識別し、適切に振りわけることもできます。このように、チャットボットの活用は、経理サービスの質と効率を同時に向上させ、従業員満足度の向上にも貢献するのです。
AI時代において経理担当者が活躍するためのポイント
AI技術の進化により、経理業務の多くが自動化される中、経理担当者の役割も大きく変化しています。では、AI時代において経理担当者はどのように活躍すべきでしょうか。
ここでは、AI時代において経理担当者が活躍するためのポイントを2つ紹介します。
- 付加価値が求められる業務に目を向ける
- コミュニケーション能力を高める
このポイントを押さえることで、AI時代においても経理担当者として活躍し続けることができるでしょう。
ポイント①:付加価値が求められる業務に目を向ける
AI時代の経理担当者には、単なる数字の処理者ではなく、経営の意思決定に貢献する戦略的パートナーとしての役割が求められます。そのためには、付加価値の高い業務に積極的に目を向けることが重要です。
具体的には、財務データの分析や予測、経営戦略の立案支援、リスク管理などが挙げられます。この業務は、AIが処理した大量のデータを基に、人間ならではの洞察力や創造性を活かして行うものです。
例えば、AIが提供する財務予測を基に、市場動向や競合他社の状況を考慮しながら、より精度の高い経営判断をサポートできます。つまり、経理担当者は「数字の管理者」から「経営の戦略的パートナー」へと進化することが求められているのです。
この変化に適応し、付加価値の高い業務にシフトすることで、AI時代においても不可欠な存在となることでしょう。
ポイント②:コミュニケーション能力を高める
AI時代の経理担当者には、高度なコミュニケーション能力が不可欠です。なぜなら、経営層の意思を的確に理解し、業務に反映させるためには、優れたコミュニケーション能力が必要だからです。
具体的には、経営層との対話を通じて経営戦略を理解し、財務の観点から支援する能力が求められます。
また、他部門との連携を強化し、全社的な視点で業務をマネジメントする能力も重要です。これにより、営業部門と連携して売上予測の精度を高めることや、製造部門と協力してコスト削減策を提案することができます。
さらに、AIが提供するデータや分析結果を、非財務部門の人々にも分かりやすく説明する能力も求められます。専門用語を多用せず、視覚的な資料を活用するなど、相手の理解度に合わせたコミュニケーションが重要です。ポイントは、経理担当者がAIと人間の橋渡し役となることです。
AIが処理したデータを社内外の人が理解できるように翻訳し、経営に活かすことで、AI時代においても経理担当者の存在価値を高めることができるでしょう。
経理業務でのAI・AIサービス活用事例
経理業務におけるAIの活用は、多くの企業で業務効率化や生産性向上に貢献しています。ここでは、実際の企業におけるAI・AIサービスの活用事例を紹介します。
- AI-OCRを活用して経費精算を効率化(楽楽精算)
- 機械学習を活用した自動仕訳により効率化(勘定奉行クラウド)
この事例を参考に、自社の経理業務にどのようにAIを導入できるか、具体的なイメージを掴んでいきましょう。
事例①:AI-OCRを活用して経費精算を効率化(楽楽精算)
ある企業では、内部統制の強化と業務簡略化を目的に、AI-OCRを活用した経費精算システム「楽楽精算」を導入しました。
導入前は、紙ベースでの申請や回覧、印鑑承認など、多くの手作業が発生。しかし、「楽楽精算」の導入により、この作業がすべてデータで管理できるようになったのです。
この結果、経費精算の作業時間が3時間から30分に短縮されたほか、未承認伝票や差戻し伝票に対する催促メール機能により、確認漏れがなくなっています。さらに、領収書の保管作業が激減し、電子帳簿保存法への対応も可能です。
AI-OCRを活用した「楽楽精算」の導入により、経理業務の効率化と内部統制の強化を同時に実現できたのです。AIが経理業務の変革に大きく貢献できることを示す好例といえるでしょう。
参考:楽楽精算「経費精算が3時間から30分に!電子帳簿保存法機能の活用で効率化」
事例②:機械学習を活用した自動仕訳により効率化(勘定奉行クラウド)
ある企業では、生産性向上を目的に、機械学習を活用した自動仕訳機能を持つ「勘定奉行クラウド」を導入しました。この導入により、経理業務における手戻りや待機時間が削減できています。
AIによる自動仕訳機能により、仕訳入力の手間が大きく軽減。また、機械学習によって、企業特有の取引パターンを学習し、より正確な仕訳提案が可能になったのです。
その結果、作業時間が1か月あたり40時間も減少するという大きな効果が得られています。この事例のポイントは、AIによる自動化だけでなく、機械学習による継続的な改善にあります。
回数を重ねるごとに精度が向上し、より効率的な業務処理が可能になるのです。このように、AIの導入は単なる業務の自動化にとどまらず、経理業務の質的向上にも貢献します。
参考:勘定奉行クラウド「奉行クラウド 導入事例」
経理におけるAI活用のメリットは多い
経理業務におけるAI活用は、効率化と生産性向上の鍵となります。AI-OCR、機械学習、チャットボットなどの技術により、定型業務の自動化、データ処理の高速化、問い合わせ対応の効率化が実現可能です。
経理担当者は戦略的な業務に注力でき、企業の意思決定に貢献する機会が増えます。
AI導入のメリットは明らかですが、大切なのは適切な導入と活用です。自社の業務フローを見直し、AIを最適に組み込むことで、真の効率化が実現します。このことから、自社に最適なAI活用を検討する際は、専門家のサポートを受けることも有効です。
ReaLightでは、経理DX支援を行っており、会社に合ったシステムのご提案と導入、さらには最適な業務体制の構築を支援しています。会計ソフトや経費精算ソフトの導入に加えて、経理業務全体の最適な業務体制を構築可能です。AI導入をご検討中の方は、ぜひご相談ください。